杉ウイメンズクリニック

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低用量アスピリン療法の副作用で、着床を邪魔して不妊になるか。
2015/02/14(土)

最近、複数の患者さんから、アスピリンを飲むと、着床を阻害して不妊になるのではないかという質問がありましたので、解説します。

アスピリンなどの鎮痛解熱剤は、COXという酵素を阻害してトロンボキサンやプロスタグランディンの産生を抑制します。トロンボキサンは、血小板を刺激して血栓を引き起こしたり、子宮内膜では着床を阻害します。したがって、トロンボキサンを抑えれば、血流は良くなるし、着床もし易くなります。一方で、プロスタグランディンは、血管を拡張し、子宮内膜の血流を良くして着床を助けます。プロスタグランディンを持たないマウスは、着床できず、不妊になる事が分かっています。したがって、高用量のアスピリンは、トロンボキサンもプロスタグランディンも、両方とも抑制するので、プロスタグランディンが不足し、着床障害を引き起こす可能性があります。そこで、我々は低用量アスピリン療法を行っているのです。低用量アスピリンは、悪玉のトロンボキサンは抑えますが、善玉のプロスタグランディンは抑制しません。したがって、妊娠には有利に働くのです。この様に、アスピリンを増やすと、効果が上がるどころか、逆効果になる事をアスピリンジレンマと呼びます。

そんな訳で、アスピリンを飲むと不妊になるという意見は、決して間違っている訳では無いのですが、高用量アスピリンと低用量アスピリンの作用機序を良く分かっていない事による誤解です。同様に、アスピリンを妊娠28週以降に飲むのは禁忌という話も、高用量アスピリンの場合であり、低用量アスピリンでは副作用の報告はありません。

では、実際に、低用量アスピリンを飲むと、妊娠には有利なのかということに関して、2014年4月2日に、Lancetという医学雑誌に非常に良い論文が載っています。毎日アスピリンを飲んだ群と、偽薬を飲んだ群の妊娠を比較検討したところ、アスピリンを飲んだ群の方が、統計学的に有意に生児獲得率が増えたとあります。この様な、偽薬を用いた研究は、医師も患者も、自分の飲んでいる薬が、アスピリンなのか、偽薬なのか分からないので、プラシーボ効果は排除でき、信頼性は高いです。この論文より、少なくとも、アスピリンを飲んだ方が、不妊になるという事は、否定できると思います。


結論として、低用量アスピリン療法のせいで、妊娠しなくなると言うことはありません。不妊の原因は、多岐に渡るので、アスピリンのせいにする前に、他の原因を探すべきだと思います。ただし、いかなる薬にも副作用は有る訳なので、当然、低用量アスピリン療法も、必要な人が根拠を持って飲むべきである事は、言うまでもありません。



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